WP_Ch.2_前提と結論 PREMISES AND CONCLUSIONS
前提と結論 PREMISES AND CONCLUSIONS
命題/主張 statement or claim とは何かが事情 the case に合致しているか、あるいは合致していないかの肯定 assertion である。命題は真か偽かのいずれの値を取る。
【命題の例】pp.21-22
中庭には一本の木が生えている。
私はショックを受けがっかりしている。
2足す2は4に等しい。
時間はあらゆる傷を癒やす
宇宙は150億歳である。
【非命題の例】p.22 疑問文、命令文、感嘆文など。
中庭に一本の木が生えているのはなぜ?
どうしてあなたはショックを受けがっかりしているの?
バカなことはやめて!
なんてこった! Holy cow!
論証は命題の組合せである。論証ではその中の一つの命題が真であると信じるに値するように他の複数の命題が理由を提供するよう意図されて構築された構造がある。支持され信じられるに値するよう意図された命題は結論と呼ばれる。一方、結論を支持する諸命題は前提と呼ばれる。
理性的存在者が関わる基本的なタスクは、命題をどのぐらいの強度で信じるかを決めることである。哲学(および我々の日常生活)における基礎的な原理は、命題に表現された我々の信念の強度がその信念を信じるための理由の強度に依存しているはずだということである。〔例えば〕強い理由に支持された命題は強く受け入れるに値する。比較的弱い理由に支持された命題は比較的弱い受容しか担保しない。論証の分析は、命題と諸々の理由にどれぐらいの信用を置くべきかを見つけるために我々が行使する第一の方法である。この方法は哲学においてだけでなく、知識のあらゆる領域において不可欠である。
ふかくさ「本書の内容には無いが、前提という複数の柱が結論という屋根を文字通り支えるイメージを持ってもらいたい。このイメージで考えると前提は都合4種類に分けられるだろう。
第一に真なる命題であり、かつ結論 conclusion or claim or consequence を支える support ような前提 premises。
第二に、真なる命題ではあるが、結論を支えない invalid、つまり結論の真偽に無関係な、あるいは結論の真偽から独立な前提。
第三に事実に照らして偽なる命題ではあるが、もし真だとしたら結論を支えるような前提。
最後に偽なる前提であり、なおかつ結論の真偽にも影響しないような前提である。文章の中でまず結論を特定した後は文章に含まれる各命題がこの4種類のどれに相当するのか、あるいはそもそも前提として書かれてないのかを判定してもらいたい」
ふかくさ「例えば、政治的な論争などでは、誰もそれが事実であることに反対しない前提らしきことを繰り返し述べることで自分はまともな人物だと信じさせようとすることがありますが、その〝前提〟が話題(結論の是非)に影響していないこともあります。例えば「日本の女性差別はひどいか?」という論点に対して、「日本の女性の平均寿命は世界一なんですよ」という事実を述べて女性差別が少ないか軽いことをほのめかすような事例がそれに当たるでしょう。平均寿命の長さと女性差別との関連はここでは明示されていませんが、「日本の女性の平均寿命は世界一」であること自体は事実なので込み入った反論を展開することはやりにくいかもしれません」
https://scrapbox.io/files/657989ec739b8300234932f2.png
ここで言うギロン argument とは日常的な意味での口ゲンカ argument の意味ではないので注意!
ふかくさ「日本語の〝批判〟や〝議論〟などと同様に、英語でも学問用語としての意味と日常語の意味にズレがある」
また論理学的な論証は説得 persuasion とも区別しなければならない。両者は独立である。なぜならば、論証を示すとはひとつの結論が担保されており、その結論が受け入れるに値するものであることを証明(実演)するひとつのやり方であるが、しかしこの証明が誰かにその結論を受け入れさせるかどうかはわからない一方、論理学的な論証によらなくても、心理的または修辞的なトリックを使って相手に命題を受け入れさせることができる可能性があるからである。
【論証の例】
論証01 騎士道は死んだ。私の師匠がそう言った。
論証02 もしミシガンのチームが勝てば、競技場で暴動が起きるだろう。ミシガンは絶対勝つだろう。だから、暴動は必至だ。
論証03 98%の学生は保守である。ジョーンは学生だから、彼女もおそらく保守である。
論証04 すべての人間は死すべきものである。ソクラテスは人間である。したがって、ソクラテスは死すべきものである。
さて、これらの論証それぞれに前提と結論のラベルを貼ってみよう(=前提と結論を識別してみよう)。
論証01 <結論>騎士道は死んだ。<前提>私の師匠がそう言った。
論証02
1. <前提>もしミシガンのチームが勝てば、競技場で暴動が起きるだろう。
2. <前提>ミシガンは絶対勝つだろう。
3. <結論>だから、暴動は必至だ。
論証03
1. <前提>98%の学生は保守である。
2. <前提>ジョーンは学生
3. <結論>だから、彼女もおそらく保守である。
論証04 <前提>すべての人間は死すべきものである。<前提>ソクラテスは人間である。<結論>したがって、ソクラテスは死すべきものである。
結論と前提の前後関係、前提の数に注意してほしい。結論が先に書かれることもあれば前提が先に書かれることもある。また、前提はひとつしかないこともあれば複数のことも大量な場合もある。場合によっては一部の前提が明示されないこともあるし、結論すら明示されないこともあり得る。しかし、論証である以上、結論と一つ以上の前提があるのは確実である。
【例文05】株式市場は急落した。ブローカーたちは不安定な状態にある。ダウ平均株価も10年ぶりの最低水準になっている。我々は関連するすべてのことをひどく恐れている。
この例文05には観察結果、報告文が並んでいるだけだ。したがって、結論もなければ前提もない。それ故、ここに論証は含まれていない。これを次のようにすれば論証を含んだ文章になる。
論証05 株式と債券の世界は荒れ模様になる可能性があります。なぜならば、株式市場が急落し、ブローカーたちは不安定な状態にあり、ダウ平均株価も10年ぶりの最低水準になっているからです。
論証評価のよくあるミス4つ Four Common Mistakes in Evaluating Arguments
1. 論証の論理的構造とその諸前提の真であることとを区別し損ねること。
2.見解 views を述べるだけのことを論証を提示することと同じだと捉えること。
3. 誰かに主張を受け入れるよう説得することと論証を提示することを同じだと捉えること。
4. 論証と非論証的な材料とを区別し損ねること。
ふかくさ「日本の国語教育では童話作家の鈴木三重吉由来の綴り方が尊重されてきたため、論証する文にせよ説得する文章にせよ、構造を文章の中につくる練習は不足しがちである。しかし、文章に構造を持たせることができなければ、そもそも論理的な文章として評価の対象に成らないことも社会学的研究によって明らかになってきている」 次の例文06はどうだろうか?
【例文06】ジョンソンは本州歴代で間違いなく最悪の知事です。新聞で知事の活動について読む人がどうして彼をサポートし続けられるのか理解できません。この州の市民は知事の役職のスキャンダルと腐敗に十分なだけではないでしょうか? ジョンソンの非常識な行動と明白な無能さに驚いています。
ここでは論証は示されていない。書き手はジョンソンに対する感想や嫌悪感を述べているだけである。これを論証に書き換えるなら以下のようになるだろう。
論証06 ジョンソンは本州歴代で間違いなく最悪の州知事です。〔その理由は以下の通りです。〕彼は州の財政から金を横領しています。彼は州の経済を台無しにしました。そして、彼は自分の役職を利用して、自分の好みに合わない人々を迫害しています。ジョンソンの極端な行動と明らかな無能さに、私は驚いています。
ふかくさ「情緒的な評価を含む文だからといって論証に含めることはできないわけではない。情緒にもそれを感じた根拠があるはずで、その構造を論証として示すことは可能である」
箇条書きにする outline とわかりやすくなる
文章には結論と前提以外の記述もたくさんある。
結論や前提を発見する手がかりになる指標語 indicator words
結論を示す指標語 p.26 帰結として consequently, 結果として as a result, したがって thus ...
前提を示す指標語 p.26 なぜならば because, というのも for , だから since, という理由で the reason being, ...
論証の中には前提や結論が必ずしも明示されていないので、その場合は分析する側が明示されていない命題を補完する必要がある。
論証07 未成年犯罪者に対する死刑を支持するすべての裁判官は、連邦憲法修正第1-10条(権利章典) the Bill of Rights の敵である。シンプソン裁判官は間違いなく権利章典の敵である。
論証07には論理の飛躍 leap of logic がある。そこで飛躍(非明示的な部分)を埋めると次のようになる。
論証07A 未成年犯罪者に対する死刑を支持するすべての裁判官は、権利章典の敵である。シンプソン裁判官は未成年犯罪者に対する死刑を支持している。したがって、シンプソン裁判官は間違いなく権利章典の敵である。
このように非明示的な部分を補完して初めて論証全体を漏れなく評価することが可能になる。